名古屋高等裁判所 平成11年(ネ)618号 判決 2000年7月19日
控訴人(A事件、C事件、D事件、E事件一審原告)
甲野花子
(以下「控訴人甲野」という。)
控訴人(A事件、B事件、C事件、D事件一審原告)
乙川太郎
(以下「控訴人乙川」という。)
控訴人(B事件一審原告)
有限会社○○興行
(以下「控訴人会社」という。)
右代表者取締役
甲野花子
右三名訴訟代理人弁護士
小林修
被控訴人(A事件一審被告)
東京海上火災保険株式会社
(以下「被控訴人東京海上」という)。
右代表者代表取締役
丸茂晴男
右訴訟代理人弁護士
纐纈和義
同
後藤和男
同
田中登
同
波田野浩平
同
細井土夫
被控訴人(B事件、E事件一審被告)
エイアイユーインシュアランスカンパニー
(エイアイユー保険会社、以下「被控訴人エイアイユー」という。)
右代表者代表取締役
トーマス・アール・テイジオ
右日本における代表者
吉村文吾
右訴訟代理人弁護士
藤田哲
同
鈴木進也
被控訴人(C事件一審被告)
三井海上火災保険株式会社
(以下「被控訴人三井海上」という。)
右代表者代表取締役
井口武雄
右訴訟代理人弁護士
大塚英男
被控訴人(D事件一審被告)
同和火災海上保険株式会社
(以下「被控訴人同和火災」という。)
右代表者代表取締役
須藤秀一郎
右訴訟代理人弁護士
北澤恒雄
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 A事件につき
(一) 被控訴人東京海上は、控訴人甲野に対し、六〇六万円及びこれに対する平成六年六月八日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 被控訴人東京海上は、控訴人乙川に対し、五八二万円及びこれに対する平成六年六月八日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
3 B事件につき
(一) 被控訴人エイアイユーは、控訴人乙川に対し、二一七万一〇〇〇円及びこれに対する平成六年五月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 被告エイアイユーは、控訴人会社に対し、一三三万三〇〇〇円及びこれに対する平成六年五月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え(当審において減縮された。)。
4 C事件につき
(一) 被控訴人三井海上は、控訴人甲野に対し、二〇二万円及びこれに対する平成六年五月一七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 被控訴人三井海上は、控訴人乙川に対し、一九四万円及びこれに対する平成六年五月一七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
5 D事件につき
(一) 被控訴人同和火災は、控訴人甲野に対し、二〇二万円及びこれに対する平成六年五月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 被控訴人同和火災は、控訴人乙川に対し、一九四万円及びこれに対する平成六年五月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
6 E事件につき
被控訴人エイアイユーは、控訴人甲野に対し、二〇二万円及びこれに対する平成六年五月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
7 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
8 仮執行宣言
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二 事案の概要等
事案の概要、争いのない事実(弁論の全趣旨による認定を含む。)、控訴人らの主張、被控訴人らの主張及び本件の争点は、次のとおり、付加、訂正、削除するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の各該当欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
一〜一〇<省略>
第三 当裁判所の判断
一 控訴人らは、本件事故が、控訴人甲野の過失によって生じた急激かつ偶然な外来の事故である旨主張するところ、被控訴人らは、控訴人甲野が故意に招致した事故であり、いわゆる保険事故には当たらない旨主張する。そこで、右各主張(争点1)について、以下検討する。
二 引用にかかる原判決「事実及び理由」第二の一の争いのない事実(弁論の全趣旨による認定を含む。)、証拠(甲一、二の1ないし6、三の1、2、四ないし一一、乙一ないし六、七の1ないし4、八、九、一〇の1ないし3、一三、一四、一五の1ないし3、一六の1、2、一七、一八、一九の1、2、二〇の1ないし10、二一、二二、丙一、二、四の1、2、丁一、二の1、2、三、四、戊一、二、原審証人牧野久子及び同冨安充裕、原審における控訴人甲野及び控訴人乙川)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。右認定に反する控訴人甲野及び控訴人乙川の原審における各供述は、前記各証拠に照らして採用することができない。
1 本件事故の状況
(一) 本件事故は、平成五年一〇月七日午前一一時五〇分に発生した昼間の事故である。
(二) 本件事故現場のある本件道路は、東西に走る片側一車線(幅員4.7メートル)の直線道路であり、その見通しは極めて良好である。また、本件道路は、いわゆる幹線道路であって、本件事故当時の交通量は相当多いものであった。控訴人甲野が、後記のとおり、本件事故前に右折して東進を開始した交差点から本件事故現場の交差点までの距離は、97.4メートルである。
(三) 控訴人甲野は、甲車を運転し、本件事故現場の手前の前記交差点に南方から進入して右折しようとしたが、左方から大江正恭運転の乙車が進行してきたので、その乙車をやり過ごして後、右折、東進した。そして、甲車は、そのまま進行し、本件事故現場の交差点手前で停止信号に従って停止している乙車に追突した。
(四) 控訴人甲野は、本件事故直後の司法警察員の実況見分に際し、本件事故について、次のとおり指示説明した。すなわち、①危険を感じた地点は、衝突地点の2.4メートル手前であり、その地点でブレーキをかけた、②甲車が乙車の後部に衝突した後、甲車及び乙車とも約一メートル進行して停止した。
(五) 控訴人甲野は、原審における尋問において、本件事故の直前には前方を注視していなかったので、前方で停止している乙車に気付かないまま追突し、衝突して初めて、乙車に気付いた旨供述している。そうすると、控訴人甲野運転の甲車の追突状況としては、前記右折した交差点から停止している乙車に追突するまで、九〇メートル以上も走行しながら(毎時三〇キロメートルで走行すると約10.8秒間、毎時四〇キロメートルで走行すると約8.1秒間)、控訴人甲野が前記のとおり衝突地点の2.4メートル手前まで乙車には気付かず、追突したことになり、しかも、甲車の助手席に同乗していた控訴人乙川が、現実に赤信号で停車している乙車を認識していることとも対比すると、控訴人甲野の追突に至るまでの前方不注視の状況についての供述内容は、不合理である。
(六) 本件事故による受傷の状況については、甲車に乗り合わせていた控訴人甲野及び控訴人乙川を含む四名は、いずれもシートベルトを着用していなかったにもかかわらず、本件事故により創傷などの傷害を負った形跡が認められない。
2 武田医師の診断書及び診療録の記載内容
控訴人甲野及び控訴人乙川が、本件事故直後に診察を受けた武田医院の診療録及び武田剛一郎医師の診断書の記載によれば、控訴人甲野及び控訴人乙川は、武田医師の診察を受けた際に同医師に対し、本件事故は「車に乗って急発進、他の車に衝突した」ものである旨説明したと記載されており、この記載は、控訴人甲野及び控訴人乙川控訴人の原審における各供述とは明らかに異なっている。
3 保険契約締結の経緯等
(一) 控訴人甲野及び控訴人乙川は、平成五年一〇月七日の本件事故発生前の五か月の間に、次のとおり、本件事故を保険事故とする四件の新たな保険に加入している。
(1) 平成五年五月一九日に、控訴人甲野及び控訴人乙川は、被控訴人エイアイユーと本件8及び11保険契約を結んだ。右保険は、保険代理店有限会社インシュアランスタマガワの牧野久子(以下「牧野」という。)を介して加入したものであるが、控訴人甲野の方から加入を申し込んだものである。
(2) 平成五年九月八日に、控訴人甲野及び控訴人乙川は、被控訴人東京海上の本件2及び5保険契約を結んだ。右保険は、保険代理店冨安充裕(以下「冨安」という。)を介して加入したものであるが、その経緯としては、本件事故前に控訴人甲野の二男甲野二郎(以下「二男二郎」という。)の保険事故が発生したことが動機となって、控訴人甲野側から、掛け捨ての安い保険を求めて、積極的に加入したものである。
(3) 平成五年九月一五日に、控訴人甲野及び控訴人乙川は、被控訴人同和火災の本件10保険契約を結んだ。
(4) そして、平成五年九月三〇日に、控訴人甲野及び控訴人乙川は、入院日額金五〇〇〇円(さらに入院を六〇日以上継続し、その後も引き続き通院または療養が必要なときは、通院療養付加金一〇万円が加算される。)の郵便局の簡易生命保険に加入した。右保険は、その保険料が、控訴人甲野分として年額一四万五二〇〇円、控訴人乙川分として年額二一万七二〇〇円と高額であって、しかも、右保険の帰趨としては、平成六年二月一四日に、本件事故に基づく保険金として控訴人甲野が四八万円、控訴人乙川が四五万五〇〇〇円の支払を受けて、平成七年九月八日に失効している。
(二) 控訴人甲野及び控訴人乙川は、右の各保険に加入する前に、既に十分な保障を得ることができる保険に加入していた。すなわち、
(1) 控訴人甲野は、①平成元年一二月一日、大同生命保険相互会社(以下「大同生命」という。)の入院特約付定期保険に加入し、②平成四年八月一日、被控訴人エイアイユーの本件7保険契約、③同年九月二九日、被控訴人東京海上の本件1保険契約、④同年一〇月七日、被控訴人三井海上の本件9保険契約、⑤平成五年三月七日、被控訴人東京海上の本件3保険契約をそれぞれ締結しており、これらの保険契約で、入院日額六万二〇〇〇円、通院日額三万七二〇〇円の支払を受けることができることになっていた。
(2) 控訴人乙川は、①平成四年七月二二日、大同生命の入院特約付定期保険に加入し、②同年八月一日、被控訴人エイアイユーの本件6保険契約、③同年九月二九日、被控訴人東京海上の本件4保険契約、④同年一〇月七日、被控訴人三井海上の本件9保険契約、⑤平成五年三月七日、被控訴人東京海上の本件3保険契約をそれぞれ締結しており、これらの保険契約で、入院日額五万六〇〇〇円、通院日額三万一〇〇〇円の支払を受けることができることになっていた。
(3) それにもかかわらず、控訴人甲野及び控訴人乙川は、前記の(一)の各保険契約を締結し、結局は、控訴人甲野は、これら全部の保険契約で、入院日額一一万二〇〇〇円、通院日額六万七〇〇〇円の支払を受けることができることになり、また、控訴人乙川は、これら全部の保険契約で、入院日額一〇万六〇〇〇円、通院日額六万一〇〇〇円の支払を受けることができることになった。
(三) 本件各保険契約の特徴及びその他の事情
(1) 傷害保険は、比較的低額で加入することができ、保険事故が発生した場合、保険金が被保険者の保険事故による具体的な損害額とは関係なく契約所定の一定の金額が支払われる定額給付方式の保険であるところ、控訴人甲野及び控訴人乙川が加入した保険はこの傷害保険であり、しかも本件事故前五か月の間に加入した三件の傷害保険のうち二件は、交通事故傷害保険であって、保険事故が交通事故に限定される反面、保険料は普通傷害保険の場合の半額程度である。
(2) 控訴人甲野及び控訴人乙川は、鳶、土工、機械据付等を業とする控訴人会社を経営し、特に控訴人乙川は、現場に行って従業員と同様に働いていたものであり、不慮の事故が発生した場合の経済的損害の填補という保険本来の目的を考えれば、保険事故が交通事故に限定されない普通傷害保険に加入する方が合理的である。
(3) 控訴人甲野及び控訴人乙川は、冨安に保険の手続をすべて任せるようになり、平成二年ころには、損害保険はすべて冨安に一本化していたのに、本件事故直前に、前記(一)のとおり冨安以外の保険代理店において加入したり、郵便局の簡易生命保険に加入している。
(四) 控訴人らの支払保険料
(1) 控訴人甲野及び控訴人乙川が、本件事故発生前の一年間に負担していた保険料は、①平成四年八月一日加入の被控訴人エイアイユーの本件6及び7保険契約につき、平成四年一〇月分から平成五年九月分までの一七万九八八〇円、②平成四年九月二九日加入の被控訴人東京海上の本件1及び4保険契約につき、平成五年九月二九日に更新して一六一万三〇四〇円(家族二名分を含む。)、③平成四年一〇月七日加入の被控訴人三井海上の本件9保険契約につき、四万九二〇〇円(家族一名分を含む。)、④平成五年三月七日加入の被控訴人東京海上の本件3保険契約につき、一九万〇四八〇円、⑤平成五年五月一九日加入の被控訴人エイアイユーの本件8及び11保険契約につき、七万一二三〇円(家族三名分を含む。)、⑥平成五年九月八日加入の被控訴人東京海上の本件2及び5保険契約につき、八万八八〇〇円、⑦平成五年九月一五日加入の被控訴人同和火災の本件10保険契約につき、五万七四〇〇円(家族二名分を含む。)、⑧平成五年九月三〇日加入の郵便局簡易生命保険契約につき、三六万二四〇〇円であって、その支払保険料総額は二六一万二四三〇円に達する。特に、本件事故発生前の一か月足らずの間に、控訴人甲野及び控訴人乙川は、右②、⑥、⑦及び⑧の保険料合計二二一万一四六〇円を支払っている。
(2) このように、控訴人甲野及び控訴人乙川は、通常の必要性の範囲を著しく超える保険に加入し、それらの保険加入のために著しく高額の保険料を支払っているものであるが、そのことについて、何ら合理的な説明はなされていない。
4 同種保険金の受領状況
控訴人らは、次のとおり、本件保険金請求前においても、保険事故を理由として多額の保険金を請求し、これを受領している。
(一) 控訴人甲野は、平成五年三月三一日に自転車に乗っていて転倒し負傷したとして、武田医院に八八日間通院し、同年九月一〇日に被控訴人東京海上に対し保険金請求をし、同年一〇月四日に八八万円の支払を受けるとともに、被控訴人三井海上から八八万円、被控訴人エイアイユーから六六万八七五〇円の支払を受け、合計二四二万八七五〇円の保険金を受領している。なお、右の際の控訴人甲野の受傷は他覚的症状のない頸椎捻挫であった。
(二) 続いて、二男二郎は、平成五年五月二六日に自転車に乗っていて転倒して骨折(負傷)したとして、長屋病院に一七日、武田病院に五六日間通院し、同年一一月一五日に被控訴人東京海上に対し保険金請求をし、同年一一月三〇日に七二万円の支払を受けるとともに、被控訴人エイアイユーから六一万二〇〇〇円の支払を受け、合計一三三万二〇〇〇円の保険金を受領している。
5 本件事故の発生時期
被控訴人三井海上に付保されていた本件9保険契約の保険期間の最終日である平成五年一〇月七日に本件事故が発生している。
6 控訴人甲野及び控訴人乙川の治療の実態
(一) 控訴人甲野の治療
(1) 控訴人甲野は、結果として、頸椎捻挫、外傷性頸腕症候群、頭部胸部腰部挫傷の診断名により、①平成五年一〇月七日武田医院に通院し、②同月七日から同月一二日まで権田脳神経外科に入院し、③同月一二日から同年一二月二五日まで長屋病院に入院し、合計八〇日の入院治療を受けた(その後に通院期間として九一日にわたる治療)。
(2) しかしながら、控訴人甲野は、権田脳神経外科に入院した当日の平成五年一〇月七日に、荷物を取りに外出した後、外泊を希望して帰宅しており、さらに、翌日の同月八日にも二回外出したり、外泊をしている。
(3) 右の入院期間中の行動につき、看護記録によれば、控訴人甲野は、平成五年一〇月には三回、同年一一月には六回、同年一二月には四回それぞれ外泊しており(右は外泊の回数であって、その他に数多くの外出がある。)、病院外にいる時間が相当多い。したがって、本来の入院の目的である安静による治療とは程遠い状況である。そのうえ、控訴人甲野は、原審の本人尋問における供述によっても、右の外泊及び外出の理由について、何ら合理的な説明をしていない。
(二) 控訴人乙川の治療
(1) 控訴人乙川は、結果として、頸椎捻挫、外傷性頸肩腕症候群、頭部胸部腰部挫傷の診断名により、①平成五年一〇月七日武田医院に通院し、②同月八日から同月一二日まで権田脳神経外科に入院し、③同月一二日から同年一二月二〇日まで長屋病院に入院し、合計七四日の入院治療を受けた(その後に通院期間として九二日にわたる治療)。
(2) 控訴人乙川の権田脳神経外科への入院は、武田医師の指示によるものではなく、控訴人乙川が入院を希望したためである。
(3) しかも、控訴人乙川は、権田脳神経外科に入院した当日の平成五年一〇月七日から、外泊を希望して帰宅している。
(4) 右の入院期間中の行動につき、看護記録によれば、控訴人乙川は、平成五年一〇月には三回、同年一一月には五回、同年一二月には三回それぞれ外泊しており(右は外泊の回数であって、その他に数多くの外出がある。)、病院外にいる時間の方が多いともいいうるものであって、本来の入院の目的である安静による治療とは程遠い状況である。そのうえ、控訴人乙川は、原審の本人尋問における供述によれば、右の外泊及び外出の理由について、控訴人会社の仕事の段取りをつけるためであったと説明しており、このことは、控訴人乙川は、ほとんど通常と変わりなく業務を処理できる状態であって、前記の治療につきその入院の必要性を疑わせるものである。
(三) 控訴人甲野及び控訴人乙川の前記の外泊の日時が、控訴人甲野と控訴人乙川とでほとんど一致しているばかりでなく、それが日曜日及び祝日と重なっている。
三 右二に認定した本件事故の状況、武田医師の診断書及び診療録の記載内容、保険契約締結の経緯等、同種保険金の受領状況、本件事故の発生時期並びに控訴人甲野及び控訴人乙川の治療の実態等を総合すれば、本件事故は、控訴人甲野が、故意に招致した事故であると推認するのが相当である。
控訴人らは、「控訴人会社は仕事が確保されて売上げも順調に伸びており、控訴人甲野及び控訴人乙川の収入には十分なものがあったから、本件事故当時、控訴人らが金銭に窮迫しているということはなかった。したがって、控訴人らには、故意に本件事故を招致することについての動機がない。」旨主張するが、仮に、控訴人らの主張するとおり、控訴人会社の売上げが順調に伸び、控訴人甲野及び控訴人乙川の収入に十分なものがあり、本件事故当時、控訴人らが金銭に窮迫しているということがなかったとしても、右のとおり、本件事故をもって、控訴人甲野が故意に招致したものであると推認することの妨げとはならないというべきである。
また、本件事故に関し、大同生命保険相互会社から控訴人甲野及び控訴人乙川に対し生命保険金が支払われていることは、右の認定を左右するものではない。
そして、本件事故は、控訴人甲野の過失によって偶然に発生したものと認めることはできず、他に、本件事故が、控訴人甲野の過失による偶然の事故であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件事故は、急激かつ偶然な外来の事故ではないから、被控訴人らは、控訴人らに対して、本件事故に関して、本件各保険契約に基づく各保険金の支払義務を負担していないというべきである。
四 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。
第四 結論
よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法六七条一項本文、六一条、第六五条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・寺本榮一、裁判官・下澤悦夫、裁判官・内田計一)